黒てんこのお便りコーナー第1回(2020/12/26)

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*これはユーモア記事です。この記事内には嘘が紛れています。 また、誰かを傷つけたり貶めたりするような目的もございません。予めご了承ください。


はじめに

記念すべきお便りコーナー第1回です。

今回は2020年12月22日~12月26日に届いたお便りに返事を書きました。 届いたお便りは全部で32,768通。 お便りを投稿してくださった皆さまありがとうございました。 たくさんのお便りの中から素晴らしいお便りを選りすぐります。

また、総文字数が1万5千文字くらいあるため、 目次を活用して少しずつ読んでいただけると幸いです。



お便りコーナーにおける注意点

注意点1:レイアウト

このページを閲覧する端末(スマホやPC、タブレットなど)によってはレイアウトがおかしくなっているかもしれません。 レイアウトが読めないくらいにおかしかったり、読めるけど読みにくかったりしている場合はお手数ですが教えて頂けると嬉しいです。

注意点2:返事の文字数

お便りによって返事の文字数に違いがありますが、特に意味はありません。 あえて言うならば、小説は長くなる、詩は短くなる、などのような傾向があります。

注意点3:誤字脱字

誤字脱字チェックは行いましたがおそらくどこかしらに間違いがあると思います。 誤字脱字を見つけた場合は見て見ぬふりをするか、私に教えて頂けると嬉しいです。


1通目:ダスティ・スティーブさん

お便り

3つの平行世界が互いに干渉しあう系の小説
(自分が着想の段階で頭のキャパを越えたせいで諦めたやつです)

返事

ダスティ・スティーブさんお便りありがとうございます。

このお便りが私のお便りコーナーの記念すべき一通目となりました。 そして一通目にして「3つの平行世界が互いに干渉しあう小説」という難題。 平行世界を題材にした映画や小説はいくつか触れたことがありますが、 正直なところあまり馴染みはなく「難しそうだな」という感想です。 しかし、お題を貰ったからには小説を書いてみようという強い信念を私は持ち合わせています。

ところで、いただいた「3つの平行世界」というお題は意外と珍しい設定なのではないかと思いました。 平行世界を題材にした作品の多くは、主人公がいる最初の世界Aと、 何かが起こって主人公が迷い込む別の世界Bという二つの世界が登場します。 たとえばドラえもんのもしもボックスで科学の世界(A)と魔法の世界(B)が登場するみたいな感じで、 基本的には登場する世界は2つです。

もしくは逆にたくさんの世界が登場する作品もいくつかあると思います。 たとえばタイムスリップものだと、主人公が過去に戻って何かをしでかし未来が変わってしまうというような事態が繰り返され、 様々な平行世界が生まれてしまうというようなものです。 つまり、2つの平行世界が登場する作品やたくさんの平行世界が登場する作品は結構あるような気がするのです。

それらに対して今回のお題「3つの平行世界が干渉しあう小説」。 なぜ2つではなく、3つなのか。 3つであることの必然性が重要なのではないかと思います。 ではその必然性とは何か。 この答えこそがこの小説のキモになるのではないかと思いつつも、 私にはあまり良いアイディアは浮かんできません。 このお題はとてもとても難しいです。 だから私も諦めて無理矢理書く事にします。

そしてそもそもダスティ・スティーブさんが小説を書いていることにも驚きました。 小説書き仲間がこんなところにいたなんて。 私はまだまだ小説を書き始めて間もない素人なので色々教えてもらえると嬉しいです。

ということで小説、書いていきます。

■■■■■■

「果物と言えばリンゴだなも。リンゴ以外の果物なんてこの世界に存在してないだも!」

 貫禄のある狸が言った。その口調には自分が絶対に正しいという自信が満ち溢れている。

 狸がそう言うのならば仕方ない。果物とはリンゴのことなのだろう。 たしかにこの村の木に生っている果物はリンゴだけだ。 そのことから考えるにこの世界にはリンゴしかないように思える。

 しかし何だ。私の頭の中に居座るピンク色の丸いやつは何だ?  おしりのような形をした丸いやつは何なんだ?  私はリンゴの木を見かけるたびに何か違和感のようなものを感じずにはいられなかった。

「何を悩んでいるのですかな」

 博物館の館長である梟がやってきて私に尋ねた。

「館長、本当に果物とはリンゴのことなのですか」

 館長はハッとした顔をした後に目を輝かせて答えた。

「おお! 面白い質問ですね。確かに現在この世界で発見された果物はリンゴだけです。 しかし地動説の話のように常識が覆ることもあります。 もしかしたらリンゴとは全く違った果物がいつか見つかるかもしれません」

 そう言ってから館長はぶつぶつと独り言を始めてしまった。 研究者という人間たちは唐突に自分の世界に入って考え込んでしまうものだ。 付き合うには少々面倒くさい。

「おーい、小僧。穴掘り手伝ってくれねえか」

 熊の住人がスコップ片手に話しかけてきた。

「分かった」

 私が熊の住人についていくと、そいつの家の裏手にはいくつもの穴が空いていた。 何かを探していたのか、それとも何かを埋めるためなのか。 まあ私にはそんなことには興味がない。

「何を手伝えばいい?」

「とりあえず向こうのほうで穴を掘ってくれ。今日一日でどれだけ穴掘れるか挑戦してんだ」

「……分かった」

 予想以上にくだらないことをしていたみたいだが、 手伝えと言うのなら私は手伝わなければならない。 そういう宿命なのだ。主人公などくだらない。

 私は言われた通り、まだ穴の空いていない場所で穴を掘り始めた。 堅いのか柔らかいのかよくわからない地面にスコップを突き刺す。

「うん?」

 すると目の前の地面に傷がついていることに気が付いた。 こういった傷のある地面には何か埋まっていることが多い。 私はその地面を掘り起こそうとした。

 その時。

「うわっ!?」

 私は足を滑らしてしまった。 落とし穴だ!!  地面に埋まっていたのは落とし穴だ!! 

 落とし穴にはまった私は、驚きと衝撃で気を失った……

 ・・・・・・

「おーい、大丈夫か?」

 熊の住人が私を穴の中から助け出してくれた。 力強い腕が私の両肩を掴んで持ち上げる。 いつもは何を考えているか分からない熊の住人がこの時だけは頼り強く思った。

「すまない。助かった」

「いいってことよ。手伝ってもらってるのは俺だしな」

 そう言って熊の住人は笑った。 その笑顔につられて私も笑った。 こいつは意外と良い奴なのかもしれない。 そう思った。

「うん? あれなんだ?」

 その時、またしても私の頭に衝撃が走った。 熊の住人の後ろにある木に見たことのない果物が生っているのだ。 この世界にある果物はリンゴだけのはずなのに、 リンゴとは全く異なる果物が生っているのだ。

「何って、あれはオレンジだろ。頭でも打ったのか」

「オレンジ! あれはオレンジなのか!」

「だからそう言っただろ。ホントに大丈夫か? 病院行くか? あっ、病院なんて無いか」

 私は驚くべき事実に気付いてしまった。 ここは平行世界だ。 パラレルワールドだ。 私は落とし穴にはまったことで元の世界とは異なる世界に飛ばされてしまったのだ。

「他にピンク色の果物はないか?」

「ピンク? 何言ってんだ。果物と言えばオレンジに決まってんだろ」

 熊の住人は困った顔をして答えた。 どうやらこの世界にはオレンジしかないらしい。 しかし、私は元の世界にリンゴがあることを知っている。 つまり、他の世界に行けばピンク色の果物を見つけることさえできるかもしれないのだ。

 私は走った。落とし穴を探すためだ。 落とし穴にはまれば別の世界に飛ぶことができる。 そうすれば私の頭の中に居座っているピンク色の果物を見つけられるかもしれない。 いや絶対に見つけるのだ! 

「急に走ると危ないぞ!」

「ほっとけ!」

 私は落とし穴を見つけて飛び込んだ。

・・・・・・

「おい、どうしたんだ。急に走り出したと思ったら落とし穴に飛び込んだりして」

 またしても熊の住人が穴の中から私を助け出す。

 私は穴の中から出るとすぐに辺りを見回した。 するとそこには黄色い果物が生った木が一本立っていた。

「あ、あの黄色い果物は、なんだ?」

 私がそう尋ねると熊の住人は呆れたような表情で応えた。

「何って、バナナだろ」

「えっ? バナナ?」

「そうバナナ」

「バナナかぁ」

■■■■■■

おそらくダスティ・スティーブさんが考えていた小説とは違うとは思うんですけど、 これで許してくだせえ。てへぺろ、てへぺろ。


2通目:悪意くん(不吉な笑み)さん

お便り

自身のバックグラウンドについて語れる限りで構いませんのでお教えいただけると幸いです!😃😃

返事

悪意くん(不吉な笑み)さんお便りありがとうございます。

私のバックグラウンドに興味を持って頂けてとても嬉しいです。 私自身もいつか自分の生い立ちについて話す機会を持ちたいなと考えていたので、 そういった機会を頂けたことに感謝します。

私はスイスのレマン湖の畔で生まれ育ちました。 私がスイス語を流暢に話すことができるのはそのためです。 湖と山に囲まれた環境は人間の成長という観点においてとても優れた環境だと個人的に考えています。 実際、自然に囲まれて育った私はとても優秀で優しく真面目な人間に育つことができました。

地元の小学校、中学校、高校と進学した後、私はチューリッヒ工科大学に入学しました。 家から一番近いという理由だけで選んだ大学だったのですが、 どうやら世界大学ランキングで第6位になっているらしいですね。 そんなつもりはなかったのですけど、 思ったよりも凄い大学だったようです(笑)。 私にとっては少し物足りない感じでしたが。

そのまま大学院に進み、飛び級制度を利用しつつ八歳で博士号(工学)を取得しました。 あまりの優秀さに教授から「このまま大学に残ってノーベル賞でも取らない?」というお誘いを受けましたが、 「私にはやりたいことがあるんで」と言って丁重にお断りしました。

私のやりたいこと。 それはもちろん『ジョー・力一の深夜32時』にお便りを送ることです。 ラジオ自体は昔から好きたっだのですがそれまでお便りを送ったことはありませんでした。 深夜32時の第3回を聞いているときに「私もお便りを送ってみよう」と思い立ち、 第四回からお便りを送り続けています。 採用された時の感動は何事にも代えることはできません。 主著論文がNatureに採択された時でさえこれほどの感動は得られなかったでしょう。

以上が私の生い立ちになります。 私のバックグラウンドはいかがでしたでしょうか。 「思ってたのと違う」ということでしたら謝ります。 すみません。てへぺろ。


3通目:足利おじさんさん

お便り

元気ですか?
私は元気です。Mr.チルドレンさんこんばんわ!以下「黒ちゃん」という。
黒ちゃんは、

      僕のこと好き?

ごめんね、急にこんな事言って

でも

黒ちゃんとの関係にはっきりさせたいと思ってて、そろそろ今後のことを考えたいし

私も
君の背負ってるものを一緒に背負う覚悟は出来てるし

だから...さっ

好きな映画や江口洋介はありますか?
私は、映画ならアメリが好きで
   江口洋介なら東京ラブストーリーが

すこすこの好き

じゃ、またな

返事

元気でちゅ。And you?

UNISON SQUARE GARDENさん(以下「利ちゃま」と呼ぶ)。

うちもね、関係ハッキリさせたいって思ってたけんね。

お便りくれて嬉しかよ~

「利ちゃまからお便り来た!!」って驚いちゃったちゃま~

だけどね。ごめんごめんご。

うちの背負ってるものは利ちゃまには重すぎるのぉ(ホントだよぉ)。

それにね。利ちゃまは私には勿体なさすぎるんよ、ん~プンプン。

だからね。うちよりも良い人見つけて。ね?

絶対に利ちゃまだったら大丈夫。うちが保証しちゃるけん!!

あとね。うちの好きな映画はトム・ハンクス主演の「ターミナル」。

「クラコウジア!! クラコウジア!!」って叫んでるとこで激萌えキュンキュン、なの~

あとね。うちの好きな江口洋介はガイアの夜明けの案内人かなぁ♡

ドラマの洋介も良いけどガイアの夜明けのカッコつけてる洋介もカッコいい!!

ということで利ちゃま、またのお便り待ってるとよよ~


4通目:ダスティ・スティーブさん

お便り

平家物語の冒頭みたいなリズム感のある怪文書(平家物語のことを怪文書と言っているわけではない)が書けるようになりたいのですが、どうしたらいいですか?

返事

ダスティ・スティーブさんお便りありがとうございます。

まず率直に言ってリズム感のある怪文書の書き方は私にも分かりません。 私も怪文書を書くことは好きではありますが、 いつも自分が書いた怪文書を読み返して冗長で読みにくいなと感じています。

しかしこのお便りを読んで一つ気付いたことがあります。 平家物語のリズミカルさはBLEACHの鬼道の詠唱に似ているのではないかということです。 (反対にBLEACHの鬼道の詠唱が平家物語のリズミカルさに似ているのでしょうか)

私は以前「破道の九十黒棺」の詠唱を真似して以下のような文章を書きました。 (ちなみにこれはもちさんのラジオ「もちのアレ」に送りました)。

■■■■■■

アフリカの角。ソマリ、アラビア、二種の言葉を操りし者よ。

最大のモガディシュ、争乱と分断、海隔て支配し祖国を賛美せよ。

赤道の41、ソマリア。

■■■■■■

南アフリカにあるソマリア連邦共和国を表すこの文章がリズミカルかどうかはさておき、 平家物語の文章と似てなくはないのかなと個人的には感じています。

つまりリズム感のある文章を書くためには、 自分が思うリズム感のある文章(ダスティ・スティーブさんなら平家物語)を真似することが一番早いのではないかと思いました。

また、もう一つ私が挑戦したリズミカル怪文書があります。 それが次に示すうさぎグランプリに投稿したお便りです。 このお便りは私としてはリズム感を重視して書いたつもりで、 最も気を付けたことは口に出して気持ちの良い単語を並べる事でした。

たとえば「フラタニティは笑って」や「あくせくトラップMr.ウサギへ?」、 「こんるるパナップ期せずして」、「粉々窮屈モンタナか」などは 自分としては良く思いつけたなと自信満々に思っています。

■■■■■■

サルバトーレ、ウサギの事に、まっすぐうさぎな骨董品を局所に目指してこんにちは。

曲がる飯にはウサギに小判と、マジカルキューブリックから兎の芽。 飛んでポスターをちょんまげ嵐なUSAGIに三度漬けを目配せして、 マルクスの貧しいウサギ玉手箱はそこには「うさぎ」と早退する。 ごぼうのマラカス方法序説を美兎から超新星に撃鉄聞かずに、 フラタニティは笑って二兎は議論にパスタを耕せば無味無臭だったらバトロワだ。

「あくせくトラップMr.ウサギへ?」

「ラブリー地下機械へこんるるパナップ期せずして、 亀と兎は毛量奥義でウサギは明らか子機なのかな!」

ベスパ兎にトムウサギハンクスは東京群青オダギリジョーってうさ坊が許可制ならば粉々窮屈モンタナか。 兎の昆虫切り取り線はローカルウサギのイーサネット軽快で状態異常にあるまじき駐車場であります。 ちなみに純情シラバスゴミ捨て場がウサギ指向と金属ステップ選抜な脱兎に修羅を分かった。

さあ、兎道の九十、黒ウサギ。

■■■■■■

いつかダスティ・スティーブさんのリズミカル怪文書がラジオで読まれることを楽しみに待っています。


5通目:キャットフードさん

お便り

パプリカみたいなもの

返事

キャットフードさんお便りありがとうございます。

「パプリカみたいなもの」ということで何でもアリの小説を書きました。

■■■■■■

「ヨッ、ヨッ、オハヨッ、若人オハヨッ」

「……おはよう、太郎君」

 若い男は喋る藁人形と朝の挨拶を交わした。 その後すぐにベッドから起き上がると、体の上に積もっていた砂ぼこりを手で払う。

 男の家は大教橋の下に穴を掘るようにして建っており、 橋の上を電車が通るたび大きく揺れる。 そのため家の中は常に砂ぼこりが舞っていた。 安月給の男にはここより良い暮らしをする手段はなかったが、 赤沼や冷地で生活するよりはいくらかマシであった。

「さあ仕事だ。出発しよう」

「イッ、イコウッ、イッ、イコウッ」

 男は太郎君を肩に乗せると家を出た。

 男の仕事は採掘場での金探しである。 身長が二メートル近くある男は、その体の大きさを見込まれて採掘場の仕事に就くことができた。 そのおかげで最下層の人間たちよりも随分とマシな生活を送れている。 仕事自体は過酷で大変だが、男は丈夫な体に生んでくれた両親に感謝していた。

「遅いぞ。早く始めろ」

「すみません。急ぎます」

 現場長に怒鳴られて男は速足で持ち場に向かう。 採掘場ではすでに百人近くの人間が金を探して山を掘り続けていた。 各地区の現場長たちの怒鳴り声が響き渡っている。

 男は錆びたツルハシを大きな岩目掛けて振り下ろし割る。 割って割って割り続ける。 この岩は含金岩と呼ばれ、中に金を含んでいることがある。 男はこの採掘場でとれた含金岩をひたすらに割り続けることが唯一の仕事であった。

 それから五時間同じ事を繰り返す仕事が続いてもうすぐ昼の休憩に入るという時。

「おい! 落ちるぞ!」

「逃げろ! 逃げろ!」

 穴を掘っていた人間たちが次々に叫んで走り出した。 通路を支えていた木材が折れて、支えを失った通路が崩れ出したのだ。 崩れ出した場所の近くにいた人間たちから土砂に飲み込まれていく。

 男は状況を確認できないまま他の人間たちに押されるようにして走り出した。

「邪魔だ! どけ、どけ!」

「いいから急げよ! 押すな! 押すな!」

 誰もが押し合いへし合いを繰り返し、出口を目指して狭い通路を走る。 その間も次々に土砂と石塊が落ちてきて下にいた人間たちを潰していく。 人間が潰される音が通路内に響き、逃げる人間たちの恐怖を掻き立てていった。

 男は全力で走り出口はもう間近というところで、太郎君が男の肩から滑り落ちた。

「太郎君!」

「イケッ、イケッ、イぃ」

 男が太郎君を拾いに向かおうとしたその瞬間にはもう太郎君は土砂に飲み込まれた。 男は諦めて出口へと跳び込む。 出口には逃げ延びた人間たちが山積みになっていた。 この土砂崩れで採掘場で仕事をしていた人間の三分の一が死んだ。

「何をしている! さっさと土砂を片付けろ! お前らの時間を我らが買ってやってるんだぞ!」

 現場長がやってきて仕事をしろと怒鳴り散らかす。 現場長たちは仕事をしている人間たちの命など特に気にしていないようだった。 減ったらまた最下層から連れてくればいい、おそらくそう考えているのだろう。

 男は仕事に戻った。 太郎君がいた場所の土砂を片付けていく。 もしかしたら太郎君の残骸を見つけられるかもしれない。 積もった土砂を運搬台車に乗せて運び、 大きな石塊を持ち上げては投げ飛ばす。 その繰り返しで少しずつではあるが土砂が取り除かれていった。

「……太郎君」

 そしてそこに藁のかたまりが落ちていた。 土砂に混ざり合ってぐちゃぐちゃになってはいるが、 それは確かに太郎君の残骸であった。

 男はその藁のかたまりをポケットに詰めた。

 陽が沈んで仕事が終わり、 男は疲れた体を引きずりながら屋台通りに向かう。 いつもなら夕ご飯を買いにやってくるのだが、 今日は魔法の藁を買いに来たのだ。

「おじさん。いつもの藁、あるかい」

「あるよ。グラムは」

「256」

「4250円」

 男は1500円札を3枚店主に渡す。 店主は札の枚数を数えるとお釣りに250円玉を男に手渡した。

「また藁人形かい? 死んだの?」

「ああ、土砂に潰されて」

「そりゃ気の毒だ。ほら」

 店主は男に特殊な藁が入った袋を渡した。 重さはきっかり256グラム。 それ以上でもそれ以下でも太郎君にはならない。 喋る藁人形である太郎君は魔法の藁で生み出すことができるのだ。

 家に帰った男は採掘場で拾った太郎君の残骸と、 屋台通りで購入した藁を混ぜ合わせた。 そして混ぜ合わせた藁を人形の形に整えていく。 眼にはビー玉、口にはタラコ、鼻にはジャガイモの欠片を付け加えた。 そして男の服の袖を切り取って作った服を着せる。 最後にクリスマスの帽子をかぶせたら完成だ。

「太郎君、太郎君、起きてくれ」

 男の声に反応したかのように藁人形が震え出す。 ビー玉がぐるぐると回り始めて、 タラコ唇がゆっくりと開いた。

「助かったぜ、相棒」

「また口調が変わった」

「ツイてない日だってたまにはあるさ。明日だけ見て生きていこうぜ」

「……ふふ、そうだな。じゃあまた明日」

■■■■■■


6通目:足利おじさんさん

お便り

嘘と逃走の日々
傷つくのが怖く 
馬鹿にされるのが怖く
明日を勝ち取る為の闘争を嘲笑い
疑い惑わし狂い生きていた
20を超え
30を過ぎ
このまま、だらだらと伸びてゆく

返事

足利おじさんさん素敵な詩ありがとうございます。

目には目を、歯には歯を、そして詩には詩を

■■■■■■

真面目に生きて

大人の言うことを聞いて

自分が正しいと信じていたあの日

それなのに

自分が大人なったら

何一つ支えはなく

時が経って仲間は遠く

理不尽はいつも唐突で

幸せはほんの少しで

それでも明日は訪れて

■■■■■■


7通目:スパルタさん

お便り

このご時世、最も有意義な年末年始の過ごし方を教えてください

返事

スパルタさんお便りありがとうございます。

現在、不要不急の外出は自粛するように促され、 できることが限られていますね。 しかも感染のリスクを抑えるために遠出もできないため、 実家に帰省することも難しいと思います。

そうなってくると家でできることを探すことになります。 例えばテレビでバラエティ番組を見たり、 ネットサーフィンをしてみたり、 ゲームで遊んでみたり、 動画配信サービスで映画やアニメを見たりなどがあります。

しかし今回のスパルタさんの質問は、年末年始における「最も」有意義な過ごし方は何かというものです。 つまり数ある家での過ごし方の中で一番面白い過ごし方を教えてくれということですね。

それはもちろん小説を書くことです。 それ以上に面白いことなどこの世界に存在していません (これはとある研究においてすでに証明されています。ソースはもちろんありません)。

スパルタさん小説を書きましょう。 あなたの目の前には無限大の世界が広がっています。 あなたはどんな世界でも自由に作り出すことができるのです。 あなたが書いた小説が面白いかどうかなど関係ありません。 好きなように好きなだけ小説を書くのです。

おすすめの本は高橋源一郎著「一億三千万人のための小説教室」(岩波新書)です。 この本では「小説を書くとは何か」ということが丁寧に述べられており、 私はとても勉強になりました。 もしまだ読んでいないようでしたらぜひ読んでみることをお勧めします。

あれれ? スパルタさん、あなたは今「小説が書きたい」、そう思っていますね?  その気持ちわかりますよ。 私も小説を書きたいと思っているからです。 安心してくださいスパルタさん。 私とあなたは仲間です。 すでに小説を書く同士となっています。

えっ?  もうすでに書き始めているんですか!?  すごい! すごいです! スパルタさん!  それなら書いた小説をジョー・力一の深夜32時に投稿しましょ。 きっと採用されます!  いや絶対に採用されます!  私はそうなると信じています。


8通目:草野ぷち子さん

お便り

【意味がわかると怖い話と見せかけてただの怖い話】

クリスマスのおはなし……。

ジョージが目覚めると、クリスマスツリーの根本に3つの箱が置いてありました。

窓の外からサンタさんが、笑顔で此方を覗き込んでいます。
ジョージはベッドから起き上がり、とたとたと箱の方へと歩いて行きました。

1つ目の箱にはスポーツシューズが入っていました。
ジョージは驚いた表情をしています。
それを見たサンタさんはクスクスと笑いました。

サンタさんは2つ目の箱を開けるように促します。
ジョージはビクビクと、箱に手を伸ばしました。

2つ目の箱には野球のグローブが入っていました。
ジョージは今にも泣きだしそうです。
サンタさんはゲラゲラとベッドの上で跳ね回りました。


サンタさんはジョージに歩み寄り、目の前で3つ目の箱のリボンをほどきます。
ジョージはぶんぶんと首を振り、泣き叫びました。

3つ目の箱にはヘルメットが入っていました。

ゴトリ

ジョージの胴体が横たわります。

サンタさんの、割れ鐘のような笑い声が鳴り響きましたとさ。

ジングルベル!!

返事

草野ぷち子さん素敵な作品ありがとうございます。

私と草野ぷち子さんが出会ったのは三年前の雪の日でしたね。 あの日草野ぷち子さんはミニスカサンタクロースのコスプレをして忠犬ハチ公の前で待っていてくれました。

私は言いました。

「初めまして草野ぷち子さん。そのコスプレとても似合ってますね」

すると草野ぷち子さんは応えます。

「いやこれコスプレじゃなくて普段着です」

「あっ、す、すみません……」

ところで、今回草野ぷち子さんが送ってくださった『意味がわかると怖い話と見せかけてただの怖い話』、 子供が「ジョージ」であることにより、 サンタクロースがペニーワイズのように見えました。 子供に大人気のサンタが、子供のトラウマの代表であるペニーワイズになってしまう矛盾。 面白いです。

そして、この作品における「ジョージ」も普通ではありません。 プレゼントは「スポーツシューズ」「野球のグローブ」「ヘルメット」でした。 普通の子供であれば喜ぶか、もしくは野球に興味がなくともサンタさんに対して「ありがとう」くらいは言うはずです。 しかし、「ジョージ」はプレゼントを見て驚き恐怖を感じているのです。

つまり、「ジョージ」は野球に対して何かしらのトラウマを感じているということです(野球の事故で両親を失ったなど)。 これは一般的な子供がペニーワイズにトラウマを持っている事と似ています。 一般的な子供がペニーワイズに恐怖するのと同じように、 「ジョージ」は野球に恐怖しているのでしょう。 そして、サンタさんはそのことを知りつつも「ジョージ」に野球の道具をプレゼントした。 おそらくサンタさんは単純にサイコパスなのでしょう。

そしてもう一つ重要な点として、サンタさんと「ジョージ」の関係性があげられます。 というのもサンタさんは当然のように「ジョージ」の家に上がり込んでいるのです。 そしてそのことに対して「ジョージ」は恐怖していません。 つまり、サンタさんは「ジョージ」の家に入ってもおかしくない存在ということになります。 私はこのサンタさんは「ジョージ」の叔父だと考えています。 「ジョージ」はすでに両親を失っており、叔父の家で世話になっていますが、 その叔父がとてもいじわるな人で「ジョージ」は日々辛い目に合わされているのではないでしょうか。

短い文章であるにも関わらず奥行きのある素晴らしい作品でした。 私も考察していて楽しかったです。 私の考察、どうでしょうか?


9通目:草野ぷち子さん

お便り

※精進料理のバイキング氏の「ちゃぶ台放送」にて送った文章を一部改変したものです



「よっしょ、よっしょ」

なみなみと注(つ)がれたタライを運ぶ。
真っ黒な闇に月明かりだけの白。
頼りないロープの様な道を辿っていく。

道の先にお盆提灯の房飾りの様な物が吊り下がっていた。

黒髪……女だ。

女は、しゃがれた声で何かを呟いている。

「ぃと…ぉし…」
バサバサの髪の隙間で、不揃いの歯並びが上下する。

「ぉの…ぃと……し…」
わたしを責め立てる。

「この…ひとこぉ゛し…」
しかし、運ばなければならない。

直立する女の横を通り過ぎる。
その時、はっきりと聞こえた。

「この……”人こぼし”」

えっ?

ふと、手許に目をやる。

タライいっぱいに肌色の液体。
その表面に口、鼻、耳といった人間の器官が、インクの様にマーブルを描いている。

“それ”と、目が合った。


「あっ」

驚いた、わたしは、



ぱしゃん

返事

草野ぷち子さん素敵な作品ありがとうございます。

草野ぷち子さんと一緒に雪合戦で遊んだのは二年前の雪の日でしたね。 草野ぷち子さんは雪で要塞を作り上げて、本気で私を倒そうとしていました。

私は言います。

「あの、遊びなんでもう少し緩くやりませんか」

すると草野ぷち子さんはこう応えました。

「遊びだろうと何だろうと本気でやらないとつまらないですよ」

「あっ、す、すみません」

ところで、今回草野ぷち子さんが送ってくださった『人こぼし』の話、 私がめちゃくちゃ好きなタイプの話でした。 残酷すぎる話は苦手なんですが、 この作品はちょうどいいくらいのぐちゃぐちゃ感でした (私は乙一著「暗黒童話」(集英社文庫)などが好きです)。

主人公は死体処理係みたいなものなのでしょうか。 タライの中には溶けた死体。 おそらくは人間の死体でしょう。 人間が液体状になるというのはかなり特殊な事態であり、 薬品で溶かしたのか、もしくはファンタジー世界ならば魔法によって溶けたなどもありそうです。

しかし、それだと一つ疑問点があります。 なぜ体は溶けているのに目や鼻や口は溶けていないのでしょうか。 先に目や鼻や口だけ切り取っておいて体だけ別に溶かしたのでしょうか。 なぜ?

その答えはおそらく「人間だと分かるように」だと思います。 全てを溶かしてしまうと見た目だけではそれが何だったのか分からなくなるのではないでしょうか。 そのため目や鼻や口だけは溶かさず残しておいてそれが人間だと分かるようにしたのではないかと考えました。 また、その人間を特定するためでもあるかもしれません。 目などが残っていればその人間がどこの誰なのか判別できると思います。 後々その死体が誰なのか判別する可能性があるということです。

また、死体処理係である主人公は最後にタライをこぼしてしまいました。 これは主人公がまだ死体処理係を始めてから間もないということを表していると思います。 というのも死体運びに慣れているのならば、タライの中の目と目があっただけで驚くはずはないからです。 主人公は死体運びに慣れていないからこそ、目があったときに驚いて手が滑ってしまったのではないかと考えられます。

とても面白く考察しがいのある作品ありがとうございました。 私の考察、いかがでしたでしょうか。


10通目:雷おこし薫子さん

お便り

よっ黒てんこ。
今スマブラやってるんだけど一緒にやらない?

返事

やらない。

(自作自演お便り)


おわりに

まず第一にお便りを送ってくださった方々ありがとうございました。 ブログを活用したくて何となく始めてみたこのお便り企画、 一通もお便りがこなければ自作自演も考えていましたが、 その必要がないほどにお便りを頂けてとても嬉しかったです。

またお便りの内容に偏りが少なかったこともありがたかったです。 全部が小説のお題だったら逃げ出していたかもしれません(嘘です)。 小説は普通に書いても文字数が多くなり、 必然的に時間がかかります。 それでも小説を書く事が好きなので楽しく書く事はできました。 小説のお題をくださった方々ありがとうございます。

最も興味深かったお便りは足利おじさんさんの「好きな江口洋介は?」でした。 「こういったお便りを受け取る気持ちってこんな感じなのか」と体験を通して感じられたことはとても有意義でした。 これからお便りを書くときの参考にさせていただきたいと思います。

最も大変だったお便りはダスティ・スティーブさんの「3つの平行世界」でした。 このお便りは一番最初にいただきましたが書き終わったのは全てのお便りの中で一番最後でした。 私が小説のお題を募集しておきながら、 無理矢理な小説を書いてしまって申し訳ない気持ちでいっぱいです。 今度こそはもう少しちゃんとした小説を書きたいという思いはあるので、 またお便りをいただけると嬉しいです。

以上で第1回お便りコーナーは終了です。 楽しんでいただけたでしょうか。 少しでも暇つぶしになったのならば嬉しい限りです。 また、このお便りコーナーは毎週やっていくつもりなので、 一通でもいいのでお便りを送っていただけるとありがたいです。 よろしくお願いいたします。


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