小説「風の歌を聴け/村上春樹」感想


小説情報

  • タイトル:風の歌を聴け
  • 著者:村上春樹
  • 出版:講談社


感想

村上春樹のデビュー作であるこの作品は「素晴らしかった」の一言に尽きる。 デビュー作の粗さがありながらも、一つの作品としての完成度の高さがうかがえた。 デビュー作でここまで書けてしまうのが恐ろしくもある。 これが天才か。「天才」という言葉で片づけてしまうのは失礼かもしれないが。 私もなれるものなら「天才」になりたい。

それにしても、村上春樹の文章はまるで魔法のようだ。 何もないところから文章を生み出しているように感じる。 なぜこんな文章を思いつくのかと感動すらしてしまう。 これは私が拙いながらも小説を書いている人間だから感じるのかもしれない。

私の場合は小説を書くとき、誰かの真似事のような文章を繕ってから、 その文章に粘土をベタリとくっつけるようにして文章を大きくしていく。 少しずつ少しずつ文章を膨らませてなんとか作品に仕上げる。 そして気が付けば自分でもよく分からない小説が生み出される。

しかし、村上春樹の作品を読んでいると、 まるで魔法のように文章が生み出されているのではないかと思わずにはいられない。 それはこのデビュー作である「風の歌を聴け」でもそう思わされた。 なぜこんな文章が書けるのかと不思議で仕方がない。 どんな文章なのかといえばそれは読んでみなくては分からないだろう。

ところで、村上春樹の文章は自然ではない、と私は思う。 自然な文章ではない。 不自然なのかというとそうでもない。 不必要かといえばそうかもしれない。 なぜこんなにも不必要で面白い文章が書けるのか(これは悪口ではない)。 小説なんてものは不必要な文章のかたまりかもしれないが。 それにしてもこうも面白い文章が書ける理由はなんだ?  分からない、何も分からない。

この作品は一人称視点の「僕」で語られていく。 この一人称視点が村上春樹の秘密だろうか。 村上春樹がこの作品を三人称視点で書いたらどうなるだろうか。 同じく面白い作品になるのか、今よりつまらなくなってしまうのか、 それとも今以上に面白い作品になるだろうか。 答えは分からないが、考えてみるのも面白い。

以上、村上春樹の「風の歌を聴け」の感想を書いた。 非常に面白い作品なのでおすすめである。