小説「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド上/村上春樹」感想


書籍情報

  • タイトル:世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド上
  • 著者:村上春樹
  • 出版:新潮社


感想

多くの方々が「村上春樹作品で一番のおすすめ」としてあげている「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」を読んでみた。 今回読んだのは文庫版の上巻。 上下巻合わせて九百ページほどある、なかなかのボリュームだ。

この作品では二つの物語が平行して進んでいく。 一つは計算士として働く「私」の物語(ハードボイルド・ワンダーランド)。 もう一つは夢読みとして働く「僕」の物語(世界の終り)。 この二つの物語がどう関係しているかは謎のまま、 少しずつ進行していく。 上巻を読んだだけではやはり謎は謎のままだった。 なんとなく理解できそうな気はするけども。

最初は「私」が不思議なエレベーターに乗っている場面から始まる。 私はこの時点で感動した。 エレベーターに乗っている場面を描写するだけに十ページほども費やしていたからだ。 私はエレベーターに乗っている場面だけで十ページも書けるだろうか、と自問してみる。 無理かもしれない。いや、書こうと思えば書けるのかもしれないけど、おもしろくは書けないだろう。 村上春樹はやっぱりすごい。すご過ぎるのだ。

どうやったらこんなにも文章を膨らませられるのか。 私だったら「私はエレベーターに乗った」で終わらせてしまうだろう。 エレベーターの中で十ページ書けるか、これは果てしない命題だ。 これが書けるか書けないかがプロとアマの分かれ目なのかもしれない。 いや、違うか。 私はこういった感想でさえ、何を書こうか悩んでしまう。 スラスラ書ける人は書けるのだろうが、私は書けない。 とりあえず目標は千文字と決めてはいる。 しかし、どうやっても千文字には達さない。

あと、この「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」ではこれまで私が読んできた村上春樹作品とは違うところがあった。 物語である。この作品では明確に物語があった。 私がこれまでに読んだ「風の歌を聴け」や「ノルウェイの森」では、 人間の心情描写がメインだったと思う。 しかし、この作品では明確に物語が存在している。 それがおもしろさの理由というか、エンターテイメントだなぁ、と感じる理由だろうか。

以上、村上春樹の「世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド」の感想を書いた。 下巻も楽しみである。