小説「菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿/ほしおさなえ」感想


書籍情報

  • タイトル:菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿
  • 著者:ほしおさなえ
  • 出版:ハルキ文庫


感想

菓子屋横丁月光荘シリーズの三作品目ということで読んでみた。 著者のほしおさなえは1995年に「影をめくるとき」で第38回群像新人文学賞の優秀作を受賞している。

本作品には三つの短編「雛の家」、「オカイコサマ」、「文鳥の宿」が収められている。 「雛の家」は二軒家で見つかった雛人形にまつわる話、 「オカイコサマ」は家の声を聴くことができるおばあさんに出会う話、 「文鳥の宿」は川越に新しくできる宿のリーフレット作りを手伝う話である。

「ただ息をして食事をして、生きるためだけに生きている、そうなるのが怖かった。命はほんとにそれだけで価値があるものなのか。命なんてそもそも泡みたいなもので、あってもなくても、続いても続かなくてもいいんじゃないか。」(70ページより引用)

こんなことが書かれていた。 私もなぜ生きているのか分からなくなることがある。 皆さんはなぜ自分が生きているのかという問いに答えることができるだろうか。 しっかりと答えられる人はすごい、と私は思う。 私には答えられない。 どうしても生きることに意味を見出せないのだ。 しかし、「生きることに意味はない」というのは答えとして不十分な気がする。

「芭蕉は人生の最後に家を捨て、旅路で死んだ。家を離れることで、芭蕉の精神はまっとうされたのだろう。家とは命を守るもの。それを捨てなければたどりつけない場所もあるということなのか。」(96ページより引用)

ここにも著者の家に対する考えが見える気がする。 「家とは命を守るもの」なのである。 このシリーズでは一貫して家について描かれている。 主人公である遠野守人は家の声を聴くことができる能力を持っている。 それに対して芭蕉は家を捨ててまで旅に出たのだ。 芭蕉の例を出してまで著者が伝えたいものは何か。

本作品では守人が自分の将来を本格的に考え始めた。 大学院の修士課程に進学はしたが、ここが自分の道ではないと悟る。 ではどこが自分の道なのかと考える。 そして、川越で働くことについて考える。 これからどうなっていくのか楽しみだ。

以上、ほしおさなえの「菓子屋横丁月光荘 文鳥の宿」の感想を書いた。 やはりこのシリーズは温かくて優しい。 温かくて優しい物語を読みたい人におすすめである。


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