小説「菓子屋横丁月光荘 丸窓/ほしおさなえ」感想


書籍情報

  • タイトル:菓子屋横丁月光荘 丸窓
  • 著者:ほしおさなえ
  • 出版:ハルキ文庫


感想

菓子屋横丁月光荘シリーズの第四作目ということで読んでみた。 著者のほしおさなえは1995年に「影をめくるとき」で第38回群像新人文学賞の優秀作を受賞している。

本作品には三つの短編、「白い夢」、「影絵とおはなし」、「丸窓」が収められている。 「白い夢」は家の声を聴くことができるおばあさんと再会する話、 「影絵とおはなし」は月光荘のイベントスペースで影絵を用いた朗読会を行う話、 「丸窓」は木工細工をしたり、鎌倉に行ったりする話である。

「生きていることがふわふわと軽く、自分の身体のことも考えなくなる。それは少しおかしなことなのかもしれない。ときにはこうやって、さやえんどうの根本をパチンと切り落とすようなことをしないと、人は命というものを忘れてしまう。」(32ページより引用)

このシリーズではこのように「生きるとは何か」ということについて書いてあるときがある。 これも著者が伝えたいことの一つなのだろう。 家は人の命を守る。人の命は守られるものなのである。 しかし、何も考えないでいると人は命というものの存在を忘れてしまう。 人は他の命を食べて生きているということや、 自分自身もいずれは死んでしまうということなどを忘れてはいけない。

「むかしだれかが書いた文章にはその人の思いが封じ込められている。著者が死んで長いときを経て、著者はどこにもいないのに、思いだけが文字の形になって紙に刻まれている。文章というのはそういうものだと思っていた。」(188ページより引用)

文章とはどういうものだろうか。 文章に刻まれているのは著者の思いだけだろうか。 そういう問いをこの作品の著者は投げかけている。 この文章の後に「だが、こうして人が声に出して読んでいるのを聴くと、文字で読んでいたときとはちがう、だれかの気配や息遣いを感じる。」と続く。 文章にはその著者の思いだけでなく、著者自身が宿っているのかもしれない。 朗読ではいつもの読書とは違った体験を与えてくれる。 もし、普通の読書に飽きてきたら朗読を聴いてみるのもいいのかもしれない。 普通の読書に飽きるということがあるのかは分からないが。

以上、ほしおさなえの「菓子屋横丁月光荘 丸窓」の感想を書いた。 これまでのシリーズと変わらず温かくて優しい物語となっている。 温かくて優しい物語を求めている方におすすめである。


小説記事一覧

以下のリンクから↓

www.kurotemko.com