小説「教団X/中村文則」感想


書籍情報

  • タイトル:教団X
  • 著者:中村文則
  • 出版:集英社


感想

中村文則の十五作目となる小説である。 出版された当時、話題となっていたことを思い出し、読んでみることにした。 中村文則は2002年に「銃」で新潮新人賞を受賞してデビュー、 その後2005年に「土の中の子供」で芥川賞を受賞している。

本作品は読んでいる感触としては生ぬるかった。 薄暗く生ぬるい、そんな感覚だった。 本作品には一貫してそんな空気が漂っている。 その雰囲気作りのうまさを感じた。

この作品を読んで改めて「宗教とは何か」を考えることになった。 本作品には二つの小さな宗教団体が登場する。 どちらの団体にも名前はない。 そして、一つは正義で一つは悪のように描かれている。 しかし、読み終えてみると、どちらも正義でもなく悪でもないように感じている。 なぜだろうか。それならば悪は国家だろうか。他国だろうか。 ……このようになぜか人間は「悪」や「敵」を探してしまう。 「悪」や「敵」がいなければおかしいと考えてしまう。

この作品では「悪とは何か」についても語っているように感じる。 悪とは分かりやすく悪なのか。 正義と悪とが綺麗に分かれるのか。 正義と悪が混じることはないのか。 一般に悪と言われていることが本当に悪なのか。 正義は悪ではないとどうして言えるのか。 いろいろと考えさせられる問題がたくさん登場する。 しかし、本作品の中でその答えは提示されない(はず)。

「宗教とは何か」が「悪とは何か」となり、そして「生きる意味とは何か」となる。 松尾正太郎は言う、「あなたの保有する命を活性化させてください。あなた達はせっかく無から有を手に入れたのだから。」(468ページから引用)。 生きる意味とは何だろうか。 皆さんは、あなたは、この問いに答えられるだろうか。 私にはやはり答えられない。 この問いは難し過ぎる。 死ぬまでには答えを見つけたいものだが。

以上、中村文則の「教団X」の感想を書いた。 読み応えのある小説を読みたい方におすすめである。


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