小説「菓子屋横丁月光荘 歌う家/ほしおさなえ」感想


書籍情報

  • タイトル:菓子屋横丁月光荘 歌う家
  • 著者:ほしおさなえ
  • 出版:ハルキ文庫


感想

知り合いにおすすめされたので読んでみた。 ほしおさなえは1995年に「影をめくるとき」で第38回群像新人文学賞の優秀作を受賞している。

主人公の遠野守人は池袋の大学に通う大学院生で、 日本の近代文学を専攻している。 指導教員の木谷先生の伝手で、川越の菓子屋横丁の一角にある築70年の古民家で、 住みこみの管理人をすることになった。 遠野守人には子供の頃から家の声が聞こえるという不思議な力があり、 その古民家の声も聞くことができた。 古い町と古い家で暮らすことになった青年と、それに関わる人々の物語。

この「菓子屋横丁月光荘 歌う家」では物語が淡々と進んでいく。 物語に大きな起伏がないため、安心して読み進めることができる。 文章も分かりやすく読みやすい。 また、古い土地や古い家、日本の伝統などが詳しく書かれていることから、 筆者の取材力の高さがうかがえる。 このシリーズが売れている理由はそういったところにあるのだろう。

「ここは古い土地なのだ。古いものが残って、積み重なっている町。昼間は生きている人たちのにぎわいで埋め尽くされて見えないけれど、ここにはかつていた人たちの気配が色濃く残っている。暗くなるとそれが滲み出す。」(74ページから引用)

私はこの段落が好きだ。 筆者がどういう思いでこの作品を書いているのか伝わってくる。 つまり、古いものというのは新しいものに取って代わられて消えていくのではない。 たとえ古くても良いものというのはどこかに残っている。 いや、残さなくてはならない。 そんな気がしてくる。

こういった実際にある土地を舞台にした作品を読むと、 その土地に行ってみたくなる。 川越はどんな街なんだろうか。 本当にこの作品に描かれているように優しくて温かい町なのだろうか。 実際に自分の足で行って確かめたくなる。

以上、ほしおさなえの「菓子屋横丁月光荘 歌う家」の感想を書いた。 落ち着いた優しい物語を読みたい人におすすめである。 この作品には優しさが溢れている。 また、古い土地や家に興味がある人にもおすすめである。 詳しいことがいろいろと書かれているので勉強になるはずだ。 私は勉強になった。