小説「猛スピードで母は/長嶋有」感想


書籍情報

  • タイトル:猛スピードで母は
  • 著者:長嶋有
  • 出版:文藝春秋


感想

長嶋有はこの作品で第126回芥川賞を受賞した。 この作品には「サイドカーに犬」と「猛スピードで母は」という二つの短編が収められている。

長嶋有の文章はとてもシンプルだと思う。 シンプルでいて具体的で素敵である。 「サイドカーに犬」の冒頭を引用する。

「数年ぶりに弟に会う。弟は、高校を卒業するとすぐに先輩を頼って上京した。バンドを組むといっていたのが、どこをどうしたか、売れないアイドル歌手グループのマネージャーになった。それも最近やめたと聞いている。」(7ページより引用)

このように文章がとてもシンプルだ。 一文目が「数年ぶりに弟に会う。」である。 とても読みやすい。 読みやすさというのは小説において良いものなのかは分からないが、 本を読むスピードが遅い私としてはありがたかった。 私は本当に読むスピードが遅い。 短編でも二時間くらいかかる。 だけどもこの作品はおそらく一時間半ほどで読めた。 これは文章がシンプルで読みやすいことのおかげだと考えられる。

タイトルもかっこいい。 「サイドカーに犬」と「猛スピードで母は」である。 これらはそれぞれ二つの言葉をくっつけて作られていると考えられる。 「サイドカー」と「犬」、「猛スピード」と「母」である。 どちらも一緒にいるとおかしい言葉たちである。 「サイドカー」と「猛スピード」、「犬」と「母」ならば良い。 「サイドカー」と「犬」、「猛スピード」と「母」だとおかしい。 おかしいのである。そのおかしさがかっこよさの秘訣だろうか。

長嶋有は少し悲しげな家庭の日常を描くのがとても上手であると思った。 「サイドカーに犬」も「猛スピードで母は」もどちらも少し悲しげだ。 「サイドカーに犬」は母が家出してちょっと変わった愛人がやってきた家庭の話、 「猛スピードで母は」は父親がいない、母と子の家庭の話である。 家族が欠けているから少し悲しいわけではない。 それとは関係なく少し悲しいのである。

以上、長嶋有の「猛スピードで母は」の感想を書いた。 とても素敵な作品だったのでおすすめ。 短編であるため、とくに本を読み慣れていない人におすすめである。 もちろん本を読み慣れている人にもおすすめ。 つまり、みんなにおすすめ。